実証から実装へ向かう箱根の挑戦
前回の記事では、箱根で始まった食品リサイクル循環プロジェクトについて紹介した。
宿泊施設や飲食店から出る食品残渣を資源として再活用し、地域の農畜産と結びつけることで、観光地の中で「食」の資源を循環させる取り組みである。
観光地で発生する食品残渣を単なる廃棄物として処理するのではなく、地域の資源として再生させる。その仕組みを箱根の観光地の中で実現しようとする試みである。
しかし、このような取り組みは構想だけでは成立しない。
観光地の現場で実際に運用できるのか、事業者は参加できるのか、コストは成立するのか。こうした問いに答えるため、箱根DMOは前年度に続き実証実験を継続している。
今年度の取り組みは、前年度の実証で見えてきた課題を解決しながら、実装に向けた可能性をさらに検証する段階に位置付けられる。
KGIとして設定された「参加施設の拡大」6施設から12施設へ。
広がり始めた取り組み
実証実験では、事業の進捗を測る指標としてKGI(重要目標達成指標)が設定されている。今年度のKGIの一つが食品リサイクル循環プロジェクトに参加する施設数の拡大である。
前年度の参加施設は6施設であったが、今年度は12施設に増加した。しかも前年度までは「大規模施設」だったものが、今年度は「中・小規模施設」が追加された。
参加施設はちょうど倍増したことになる。
宿泊施設を中心に飲食施設も加わり、より実際の運用に近い形での検証が可能となった。この増加は、地域の事業者の関心が高まりつつあることを示している。
実証を重ねながら参加者が増えていくことは、このプロジェクトが地域の中で現実的な取り組みとして受け止められ始めている証でもある。
箱根の地形に合わせた回収モデル
箱根の地形が生んだ、新しい回収モデル
前年度の実証実験では、食品残渣の回収や輸送に関していくつかの課題が明らかになった。
特に大きかったのは運搬の問題である。
箱根は山間地の観光地であり、道路幅が狭い場所も多い。大型車両による回収では効率的な運用が難しいという課題があった。
この課題を解決するため、今年度の実証では回収方法そのものを見直した。
宿泊施設などからの回収は小型車両で行い、町内に設けた集約拠点に一度集める。そこから大型車両で日本フードエコロジーセンターへ輸送する仕組みである。
いわば、小さな車で回収し、拠点でまとめ、大きな車で運ぶという二段階の輸送方式である。
この方式により、箱根の道路事情にも対応できる回収体制が整い、運搬の効率化が進んだ。
さらにコスト面でも改善が見られ、試算では従来方式と比較して約30%のコスト削減効果が確認された。
山間観光地という条件の中でも実現可能な回収モデルが見え始めたのである。
観光客アンケートが示した可能性
観光客の声が示した、サステナブル観光の可能性
こうした実証実験と並行して、観光客および観光事業者の声を把握するためのアンケート調査も行うことになった。
プロジェクトメンバーの中で湧き上がった一つの疑問、「この取り組みは本当に観光客に受け入れられるのか?」を知りたいという単純な、でもとても重要な疑問に対する「解」を求めてのことだった。
まず観光客アンケートでは、箱根を訪れる旅行者がサステナブルな観光についてどのように感じているのかを調査した。
食品リサイクル循環プロジェクトについて説明した上で評価を尋ねたところ、国内外ともに多くの観光客が取り組みを評価し、「とても良い取り組みだと思う」とする回答が高い割合を占めた。
観光客の多くが、このプロジェクトに対して好意的に受け止めていることが確認された。
調査から見えてきたのは、サステナブルな観光に対する国内外の意識の違いである。
海外旅行者の約8割は旅行先を選ぶ際にサステナブルな観光を意識しているのに対し、国内旅行者ではその割合は4割程度にとどまる。
つまり環境配慮型の観光地づくりは、特にインバウンド観光においては、もはや不可欠であり、避けては通れない要素となりつつあるということである。
環境への配慮は単なる社会的責任ではなく、観光地としての魅力そのものになり得ることを、この調査は示している。
今回のアンケートは、実証実験の方向性が観光客の意識と大きくずれていないことを確認する意味でも重要な役割を果たすと同時に、私たちの背中を強く押してくれた。
事業者アンケートから見えた課題
事業者アンケートが示した、導入のリアル
一方、地域の観光事業者に対するアンケートも実施された。
箱根DMOの賛助会員を中心に行われた調査では、食品残渣のリサイクルについて多くの事業者が関心を持っていることが明らかになった。
実際にこの取り組みに参加したいと回答した事業者は71%にのぼる。すでに多くの施設が食品ロス削減やプラスチック削減、省エネルギーなどの環境配慮の取り組みを行っており、そこに食品資源の循環という新しい視点が加わることへの期待も見られた。
また、アンケートでは「どのような支援があれば取り組みやすいか」という質問も行われた。
その結果、「補助金・税制優遇の情報提供」や「初期コストの支援」といった費用面での支援を求める声が多く挙がった。
一方で、それと同程度に多かったのが、既存業務を邪魔しない「回収・運用システム」への要望である。
つまり、事業者にとって重要なのはコスト支援だけではない。日々の業務の流れを大きく変えることなく導入できる、現場に無理のない仕組みづくりであることも同時に求められていることが分かった。
これは、事業者が取り組みに関心を持っている一方で、実際に導入するためには地域全体での仕組みづくりが必要であることを示している。
今回の実証実験は、そうした課題を一つずつ検証しながら解決していくためのプロセスでもある。
次年度に向けた展望
次のステップへ。実証から見えてきた未来
実証実験の取り組みは、地域の行政関係者にも共有されている。これまでの取組内容を受け、箱根町の町長や町議会議員が食品リサイクルを担う日本フードエコロジーセンターの工場を訪れ、取り組みに関心を寄せた。
観光地の中で食品資源を循環させるというこの取り組みは、観光政策だけでなく地域の環境政策とも深く関わるものである。
実証の結果や事業者の反応、観光客の評価を直接確認する中で、関係者は今後の展開に向けた手応えを感じていた。
食品リサイクル循環プロジェクトは、観光地の中で資源が循環する仕組みを目指している。
宿泊施設や飲食店から出る食品残渣は飼料として再資源化され、その飼料で育てられた豚はブランド豚として出荷される。そしてその食材は再び箱根の宿泊施設や飲食店で提供される。
観光地の中で「食」が循環する仕組みである。
この循環は環境負荷を減らすだけでなく、観光地としての新しい価値を生み出す可能性を持っている。
今年度の取組みでは、参加施設の拡大、回収方式の改善、コスト削減の可能性、観光客や事業者の意識など、多くの成果と課題が明らかになった。
こうした結果を踏まえ、来年度は実施地域や参加施設のさらなる拡大や回収体制の改善を進めながら、取り組みの実装に向けた検証を続けていく予定である。
食品リサイクル循環プロジェクトは、実証を重ねながら少しずつ前に進んでいる。
観光客、事業者、地域、そして行政が関わりながら、新しい観光地のかたちをつくろうとしているのである。
